「海に沈んだ対馬丸」(早乙女愛)

自分の知識の何と薄っぺらであったことか

「海に沈んだ対馬丸」(早乙女愛)
 岩波ジュニア新書

対馬丸という名前は聞いていたし、
沖縄から出航した疎開船が沈没し、
多くの子どもたちが
犠牲になったことも知っていました。
しかし、…本書を読んで、
自分の知識の
何と薄っぺらであったことかを
思い知らされました。

まず第一に、
対馬丸は貨物船であったこと。
当然、多くの子どもたちが
体を休めることもできず、
トイレさえ満足にない状況の中で、
ぞんざいに運ばれていったのです。
これは補給や輸送を軽視した日本が、
次々と船舶を沈没させられた
結果なのです。
当時の日本の指導者たちの
何と無策なことか。

第二に、
近海に潜水艦がいるとわかっていて、
防御する何の手立てもなく、
被弾したときの対応策や
避難計画もなかったということ。
ここに、人の命を守るという考えは
見当たりません。

第三に、
船から脱出できた人たちが
大勢いたにもかかわらす、
漂流中に多くの人たちが
亡くなったということ。
救助に当たったのは
護衛艦でもなく救助船でもなく、
一般の漁船だったのです。
ここにも国や軍隊や公務員が
何を守るために存在していたかが
見え隠れしています。

そして最後に、生存者たちには
厳重な箝口令がしかれていたこと。
生存者たちには、
言動を監視する憲兵が
ついていたそうです。
国民を守るどころか敵視する。
当時の軍隊は何を守るべく
何をなそうとしていたのか。

単に「疎開船が
沈没しました」ではない悲劇が、
死者の数だけ存在していたことに
気付かされました。

私たち大人でさえ、
戦争について正しく理解できていない
現実があります。
それは情報がきちんと
発信されないまま、
現在に至っているからなのです。
戦争の真実の姿を一つ一つ検証し、
何が悪く、何が間違っていて、
誰にどのような責任があるのかを
総括していかなければ、
私たちの国はいつかまた
同じような過ちを犯してしまうのでは
ないかと不安になります。

私たちにできることは
知るための努力をすること。
積極的に知ろうとすること。
無関心でいないこと。
戦争について知るべきことが
まだまだたくさんあります。
対馬丸に関連した大人向けの新書本が
存在していないのが
何ともお寒い状況なのですが、
だからこそ、本書は
大人にも子どもたちにも
薦めたい一冊なのです。

(2020.6.18)

Koenigさんによる写真ACからの写真

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